「趣都フォーラム 2023」が5月20日に開催されました

5月20日、趣都金澤の総会・フォーラムが、金沢21世紀美術館 シアター21を会場に開催されました。新型コロナウィルスの蔓延によって総会はオンラインでの開催、フォーラムの一時休止などあり、会場に一堂に会しての総会・フォーラムは2019年以来4年ぶりの開催となりました。
>> 趣都フォーラム2019

フォーラム前には定時総会が行われ、2022年度の事業報告、2023年度の事業計画と、2年の任期満了に伴う理事会役員の改選などが行われました。

▼2023年度総会▼
日時:2023年5月20日(土)13:30~14:00
会場:金沢 21 世紀美術館シアター21 またはZOOM

▼趣都フォーラム2023▼
14:30~18:00 趣都フォーラム2023「これでいいのか、金沢」
会場:金沢21世紀美術館シアター21
入場:無料

▼懇親会▼
18:30~20:00 懇親会
会場:カフェレストランFusion21

定時総会の様子。

趣都フォーラム2023 「これでいいのか、金沢」

今回の趣都フォーラムは「これでいいのか、金沢」という刺激的なタイトルで開催されました。このテーマを考えた背景は以下のような議論があったからです。

──国際社会は不安定さを増し、日本経済は長期停滞から抜け出せていない。一方、地域レベルでは、生き残りをかけて全国各地で積極的な挑戦が次々と展開している。では、金沢はどうであろうか。北陸新幹線の成功にあぐらをかき、観光の復活で表面的に潤うのを待つだけになっていないか。こんな時代だからこそ、長期的な視野に立った地道なまちづくりや文化の構築を見直す必要があるのではないか。──

そこで、「世界趣都 金沢 2030 実現への 12 のメソッド」を発表して4年が経つことを踏まえて、趣都金澤の会員が取り組んでいる様々な活動を共有し、この先の金沢の方向性を共に考えたいと企画されました。

これまでの趣都フォーラムはゲストをお招きしてパネルディスカッション、講演会スタイルで行ってきましたが、今回は新たな試みとしてワークショップのスタイルで行いました。話題提供者も認定NPO法人 趣都金澤の会員の中から5名を選出し、5つのテーマごとに来場者を振り分けて、ディスカッションの場を設けました。ここには、共に金沢の今・未来を考えるとともに、コロナ禍の影響で滞っていた会員同志の交流を活発化させるという裏テーマもありました。

【第一部】 14:30-15:50 プレゼンテーション
<モデレーター>
内田奈芳美(趣都金澤 理事)

<基調講演>
『これでいいのか、金沢』 佐無田光(趣都金澤 理事)
趣都金澤会員からの話題提供『これでいいのか、金沢の○○』

<話題提供・プレゼンテーション>
『まちづくり』牧野俊崇(趣都金澤 会員)
『デザイン』稲垣揚平(趣都金澤 会員)
『工芸』前田厚子(趣都金澤 会員)
『働き方』山岸晋作(趣都金澤 参与)
『観光』髙田恒平(趣都金澤 会員)

【第二部】 16:00-16:50 ワークショップ
プレゼンテーションで発表されたテーマに沿って、
グループ毎にディスカッション

<ファシリテーター>
『まちづくり』坂村圭(趣都金澤 理事)
『デザイン』菅野圭祐(趣都金澤 会員)
『工芸』佐無田光(趣都金澤 理事)
『働き方』安江雪菜(趣都金澤 副理事長)
『観光』丸谷耕太(趣都金澤 理事)

【第三部 】17:00-18:00 フロアディスカッション
ワークショップの内容をグループ毎に発表し、
フロア全体でディスカッション

モデレーターの内田さん。
基調講演を行った佐無田さん。

モデレーターは内田奈芳美さんがつとめ、2019年の趣都フォーラムで発表した「世界趣都・金沢 実現への12のメソッド」について触れ、今回のワークショップの概要・意図を説明。

佐無田光さんが基調講演を行い、社会の分断と投機的な占有の状況、国内外の情勢をデータを交えて紹介し、「金沢は世界の中でどう位置付けられるのか」と、今回の「これでいいのか、金沢」という問いを参加者へと投げかけました。

5つのテーマに沿って話題提供・プレゼンテーションが行われ、受付時にランダムにチーム組みされた参加者と話題提供者、ファシリテーターがディスカッションを行い、最後に各チームの議論を全体に発表。とても活気のあるフォーラムとなりました。

<まちづくり>
話題提供者の牧野俊崇さんは、まちづくり=個人の暮らしの集合体と定義し、東京で暮らす会社員でありながら、金沢のマンション・町家リノベーション事業に精通する立場で自身の考えなどを発表。

『まちづくり』の話題提供者:牧野さん。

話題提供された金沢の中心部(都心部)の再開発で何が生まれ、何が消えたのか。また金沢の中心部で億ションの建設が増える一方で、大量の空き家もあること、若い世代の郊外居住の傾向などが話し合われました。豊かさの解釈が変わったのではないか、若者と古くからの居住者・地域とのギャップを埋めるにはどうしたらよいのか、などの意見も。

<デザイン>
話題提供はデザイナーの稲垣揚平さん。デザインには意匠すること、図案や模様を考案すること、目的をもって具体的に立案・計画するという意味があり、近年は経営や政策づくりにもデザイン的アプローチが行われている。伝統のまち金沢とデザインの親和性や、課題が大きいほどデザインは問題解決に有用であることなどを紹介。

デザインチームの発表は、意見のまとめ方、見せ方にもデザイン性が見られる!? 金沢とデザイン、そこから出たキーワードはシンボル、まちづくり、仕組み、人づくり。建築、デザインのポテンシャルが高く都市格がある。しかし、道路拡幅のため趣ある街並み、瓦葺の町家などが失われていっているなど、さまざまな意見、指摘が出ていました。

<働き方>
話題提供者は会社経営者である山岸晋作さんが、87年続く老舗の家具屋の転機、経営方針の転換など自社の事例、顧客への提案などの事例を中心に紹介。オフィス家具を扱いながら、紺屋の白袴で自社のオフィスがおざなりになっていたが、大々的にリニューアルし、働く自分たちを見てもらうオフィスにすることで、働き方も社員の意識も変わったという。

ランダムなグループ分けの結果、構成メンバーが経営者とフリーランスが中心となった働き方チーム。金沢には独特の産業構造が見られ、セクト主義や閉ざされている感があり、どう解放していくか、働き方のアップデートが必要ではないかという意見が出ていました。

<工芸>
工芸をテーマに研究している前田厚子さんが、自身の研究・調査をベースに金沢の工芸展などの事例、出品者などに行ったアンケート結果などを紹介。金沢が工芸を基軸に発展するには、次世代の育成が課題ではないかと発表。

前田さんが調査した金沢、富山、岐阜、京都の工芸に関わる人材には地域性が見られること、工芸市場において富裕層・コレクターが中心だった従来の傾向から、工芸のユーザーの目線や感覚に変化が見られライトな市場が出現していること、デジタル化が進んでいることなどが話し合われました。最終発表の質疑応答では、会場参加者の中から工芸家からの貴重な意見も聞かれた。

<観光>
ホテル、観光バスツアーなど旅行業に従事する髙田恒平さんが、コロナ禍によって変化した観光業界、なかでもインバウンドのゲストを誘客するために重要な存在であるランドオペレーターがリセットされてしまい、今後いかに金沢の魅力、コンテンツを伝えるかが課題であり、同時にチャンスにもなりえるのではないかと事例を交えて紹介。

金沢の観光が固定化しているためイノベーションが必要。何を求めて観光に来ているのか、地域の経済と繋がることなど見極めが重要。決まったものを提供するのではなく、価値はお金を出す観光者が決めるものかもしれない。観光は光を観ると書くが、影の部分も大切で、金沢の日常の中に魅力がある。暮らしを充実させてそれが観光につながるのではないか。

総括として金沢では工芸に対するステレオ的評価、観光でもステレオ的評価があり、それに対する拒否反応もあるので価値のアップデートが必要。誰が主体なのか、デザインのプロセスにも注目が必要。今回のワークショップで出た意見は、考えるヒントとして各々が持ち帰り、次の機会に繋がって欲しいと締め括られました。